都会と田舎ーー『人間の彼方』ユーリ・ツェー

小説『人間の彼方』(ユーリ・ツェー、酒寄進一訳、東宣出版)がよかった。
コロナ禍のドイツの首都ベルリンと、地方の保守的な村。
2か所の生活が描かれている。
主人公のパートナーはコロナ禍でインフルエンサーとなり、主人公の父親は大病院の医師。
こういう設定のおかげで、コロナ禍のさまざまな様相が描かれている。
日本と似ているところもある。
主人公は都会の会社員で、在宅ワークやオンライン会議が始まる。
主人公は30代半ばという微妙な年齢の女性。

けれども、大きな違いはネオナチの存在。

数年前に読んだカズオ・イシグロの言葉を初めて実感した。
「俗に言うリベラルアーツ系、あるいはインテリ系の人々は、実はとても狭い世界の中で暮らしています。
東京からパリ、ロサンゼルスなどを飛び回ってあたかも国際的に暮らしていると思いがちですが、実はどこへ行っても自分と似たような人たちとしか会っていないのです。

私は最近妻とよく、地域を超える「横の旅行」ではなく、同じ通りに住んでいる人がどういう人かをもっと深く知る「縦の旅行」が私たちには必要なのではないか、と話しています。
自分の近くに住んでいる人でさえ、私とはまったく違う世界に住んでいることがあり、そういう人たちのことこそ知るべきなのです。」
東洋経済 倉沢 美左(https://toyokeizai.net/articles/-/414929?display=b


あと、犬と田舎と畑仕事、そして都市が好きな人間にぴったりな小説かもしれない。

〈追記〉
辻村深月『この夏の星を見る』もコロナ時代の日本社会をうまく描いている。
でも、海外の『人間の彼方』の方が親近感を覚えた。