楽しい本

 明るい気分になりたくて、アントン・チェーホフ(Антон Павлович Чехов / Anton Pavlovich Chekhov)の『結婚申し込み』を手に取った(中村白葉訳・新潮文庫・1952年発行)
 とても短い喜劇。
 すぐ読める。
 有名じゃない。
 でも、やっぱり、おもしろかった。
 ところどころ、『三人姉妹』や『桜の園』の、あのさびしいような、哀しい感じが少し射しこんでいる気もする。
 

 『美しきカサンドラ ジェイン・オースティン初期作品集』を再読している。
 これもやっぱり、おもしろい。
 長編より未熟、稚拙かもしれないけど、オースティン(Jane Austen)の根っこがわかる気がする。
 結婚と笑い。波瀾万丈かつ陳腐な展開の小説への批判。人間風刺。


 少女のオースティンが、楽しそうに書きまくって、まわりの親しい人に献呈していた様子もうかがえて、うれしい。


 わたしのいちばんのお気に入りは表題作。
 絵本にしたら映えるのでは、と言った人がいる。
 わたしは、「ぶっとばしてそこを立ち去りました。」という訳も好き。
 名訳だと思っている(向井秀忠訳)。


 オースティンは、現代に生きていれば、喜劇作家になったのではないだろうか。
 お芝居やテレビ・映画界で活躍したり。
 彼女が出版した(しようとした)長編小説はすぐれているし、おもしろい。
 でも、何かの制約の中で書いている気がするのだ。
 ときどき、その制約の天井にぶつかって、主役級の登場人物(とくにヒーロー)に生彩がなかったり、脇役のほうが魅力的だったりする。
 ミセス&ミスター・ベネットや、義姉ファニーや、メアリー・クロフォードとか。
 

美しきカサンドラ―ジェイン・オースティン初期作品集

美しきカサンドラ―ジェイン・オースティン初期作品集