5月の山歩き

http://www.geocities.jp/utataneni/nature/new.htmlに写真約40枚とともに掲載、加筆訂正もそちらで行なっていきます


5月

 ゴールデンウィーク。牛伏山の裏から猪ノ田(藤岡市)のほうへ向かう。今回は車である。

 暗く細い道を下ると、山のなかの小さな集落に出た。イノシシらしい毛皮が干されていて驚く。カーブに「弘法の井戸」というのがあって通り過ぎる(下日野高井戸)。

 えーっと、植物の話も。白い花が咲いていた。これは携帯に撮ってあったのを見て、思い出したのだ。黄色い山吹や、紫色の藤の花もあったかもしれない。








 裏山を散歩。山林の小道を久しぶりに歩いて、驚いた。緑色のなかを歩いている感じがした。木の葉が出そろい、濃くなっただけではなく、いつのまにか、地面も植物に覆われていたのだ。

 木の若葉の変化は、窓や車道から見て知っていた。でも、地面にもこんなにたくさんの草が生え、茎や葉を伸ばしていたとは。ぜんぜん気がつかなかったし、忘れていた。

 とても新鮮な気持ちで、楽しめた。

 ところどころに、綿毛になったタンポポがゆらりと立っていた。不透明な白い球体は、不思議な印象だ。

 草の間からは赤いヘビイチゴの実も見えた。

 丘の上は畑である。乾いた土の道の両脇に、黄色いハハコグサ(母子草)の花がたくさん咲いていて、見とれた。

 ふと前の丘を見たら、草の茂みに白いかたまりがいくつも見えた。ハルジオンか。
 ふと、「ノイバラが咲いているんだ」と思った。足を速めて近づくと、そうだった。うれしかった。推測が当たっていたことよりも、ノイバラが咲いていることがずっとうれしかった。

 自分にとって、野に咲くこの白い花は、春の盛りのイメージなのだ。ノイバラは、一般のバラよりはずっと地味だ。近くで見ても、華やかではない。

 でも、自然において野山においては、女王のように輝いている花だ。ほかのいくつかの花のように、咲いていることが新しい季節、輝いていく季節を感じさせてくれて、うれしい花だ。

 夕方、牛伏山でホタルカズラの花を見た。多弁で、青い小さな花。オオイヌノフグリよりも濃い青色。緑色の宇宙にまたたいている青い星のようだ。






 水路の清掃が今年もおこなわれた。田んぼに水が入ったら、夜のカエル(蛙)の鳴き声が多くなった。

 窓から、月に照らされたきれいな道やなんかが見えたので、開けて出てみた。わたしは、もともと月夜の風景が好きだけど、この日はカエルの合唱にも惹きつけられた。
 数年前、「ずっと聞いていると気が狂ってしまいそうだ」とイヤになった。でも、この日はやさしく快く聞こえた。

 月に照らされた野山も、街灯がぽつりぽつりと少ししかないこの里、山村も大好きだ。



 夜、田んぼに何か大きな鳥が立っていた。白サギらしい。
 あと、山の大木(と思われる)で、「ホーホーホッホー」とか鳴いているのはフクロウではなく、アオバズクらしい。
 フクロウは(たしか)中勘助の『銀の匙』にあるように、ほんとに「ごろ助ほーこー(奉公)」と鳴くらしい。




 牛伏山を散歩。
 白い花がらが車道に落ちている。見上げると、エゴノキの花が枝に鈴なり。この時期、清々しい気持ちになる白い花だ。
 この日、なんといっても一番美しかった花は、コアジサイ。精巧なレースみたい。とくに牛伏山自然遊歩道は、薄紫色のこの花がたくさん咲いていた。

 階段で、なにか小さなものがうごめいていた。目を近づけると、ミミズと一匹のアリ。最初は運んでいるのかと思った。ところが、ミミズも抵抗して、くねっている。ふつうに生きているようだ。結局アリはあきらめたが、心なしか、よろめきつつ去っていったように見えた。

 コドメウツギの花は薄茶色くなっておわり。

 ふと、まわりの木の葉をみたら、花のように思える木の葉があった。
 大粒の雨が降ってきた・・・と思ったら、風が落とす花の音だった。

 頭上ですごい羽音。ノイバラか何かにたくさんの虫が集まっているのだ。わたしは遊びとして山歩きをしているけど、虫たちはせっせと働いている。

 鳥の声もいろいろした。

 この時期、山はにぎやかだ。そしてこの日、山での空気は、うるんでかぐわしく、甘いような匂いがすることに気づいた。

 そうか、「空気が美味しい」っていうけれど、この「空気」には温度や湿度、それに音や匂いもふくまれているんだ、と思った。

 崖の上にいたとき、車道から、街宣車みたいな歌が響いてきた。カーブに現れたのは、1台のバイク。男性が朗々と歌いながら、ふつうのスピードで下っていった。ああいうのも楽しいかもしれない。
 この日見かけた歩行者数名は、すべて中高年の男性。
 ふもとの川辺の小道は舗装されてふつうの農道に変わってしまった。
 約2時間の散歩。





 牛伏山ふもと、赤谷ため池。陶芸施設もできて、完全に変わってしまった。芝生もある。沼のふち(かつては田んぼ)にはつねに水が引き入れられ、花菖蒲のようなものが植わり、沼の周囲には石が置かれている。それはこざっぱりとした眺めだ。そして、どこにでもあるような公園だ。

 あそこは前、水辺の様子を見ながら、沼のすぐ横を歩ける気持ちのいい野辺の道(畦道)があったんだ。小さいけれど、藪もあった。対岸の藪には、鳥の巣があった。公園の誕生によって、藪はなくなり、ため池入り口の道に、枝を投げかけていたハコヤナギの木もなくなった。沼の奥には渓流沿いにホタルがいた。

 自然公園の計画を知ったときはうれしかった。奥の桑畑はジャングルのようになって、入れなくなっているようだったし。でも、自然公園て、もとからある草木土砂を取り除く事業でもあるんだ、と知らされたのだった。

 ・・・・・・ 

 この日は、道をたどってウロウロした。

 まず、林道八束沢線で多胡へ。それから戻って、牛伏山登山道へ。三差路から、赤谷の方へ。その後、また三差路へ。
 つぎに、地図にはないけど、先の登山道と川を挟んで平行していて、しっかりした道になっている川沿いの道を歩いてみた。

 道を確認したところでまた三差路に戻り、今度は「ろう梅の里」へ。この道は久しぶりに歩いたら、長く感じた。遊歩道とは地形や植物が変わっている感じがして(県有林)、おもしろい道ではある。

 コアジサイが両脇に咲いていた。とても多い。甘い香りがすることに初めて気づいた。

 うえにも書いたけど、あらためて思った。空気とは、匂い、湿度、温度、音(風、木々、虫、鳥、川)、それから頬をなでていく風の感じ。そして、たしかに牛伏山とそのまわりは、空気が美味しい!“How good to eat!”(「Orlando」Virginia Woolf)


 今年初めてセミの声を聞いた。ジイジイという声であった。

 エゴノキの白い花は、初夏の山桜のような存在かもしれない。

 この日は、歩いている人を誰も見かけなかった。ただ一人で、緑の濃い山のなかの小道を歩いていた。町からも、人里からも離れて、そういう音や人の声の聞こえない山のなかにいる感覚、ちょっと好きだ。ただ、(以前、イノシシの群れに遭遇したときのように)、携帯電話も通じない危ない場所でもあるが。

 「登山道」という名前だが、このあたりはわたしでも散歩、散策できる道だ。こういう道も、イギリスの田園にあるというフットパス(footpath)だろうか。




 5月末日。夕闇のなか、田んぼのうえををホタルが一匹、飛んでいた。



6月

 家の敷地でヤマガカシに遭遇。緑っぽい体に朱色の模様がちらほらあった。くねりながら、隣の畑へ入っていった。

 車道には赤やピンク色のタチアオイの花が咲いている。透明感があって好きな花だ。