2020年点描~春分から4月~

 春分の日、神社のある里山に3本の桜が咲いていることに気づいた。濃いピンク色の2本と、薄いピンク色――ふつうの桜色、桜もちの色―-の1本。きっと、数日前から咲き始めていたのだろう。

 うれしい。極めてうれしい。

 もう2月から、ホトケノザなどの野の花、カワヅザクラ・梅などの木の花が咲いているけれど、山に桜が咲いているのは、他にはない喜びだ。

 花が咲いている桜の木は、喜びそのものだ。

 

 

 山沿いの川に咲いている桜が美しい。「極めて美しい」と思った。

 前日は朝、ドアを開けると雪が舞っていた。神社の山を背景に、横殴りで降っていた。たくさんの雪が斜線状に、同じ方向に降っていた。

 北の山冠雪。他の山は見えない。日中も雪が舞い、寒い1日だった。

 「吹っ越し」「雪虫」という言葉を聞いた。確かに南の山には雪が積もっていないようだった。

 

 

 神社の山の桜は満開かもしれない。

 “コロナ”の状況が数日ごと、時には1日ごとに悪くなっている。感染を抑えられていないのではないか、という不安。国への不信感が自分の中で広がっている。

 鴨長明の『方丈記』はやはりすばらしい。あの中の養和の飢饉、「疫癘(えきれい)」と同じことが起こっている。

 「聖(ひじり)だちたる様(さま)」を強調して書いたような記録であり、自伝で、その中で災禍が強調されている。でも、人、クライアント(客)への説教集・スピーチ集のようなところもある兼好の『徒然草』より、際立って印象に残る。東日本大震災のときも。今回も。

 

 

 古墳の桜(ソメイヨシノ)が美しい。薄いピンク色の桜花。

 敷島の国は桜の国ぞ。

 ――敷島のやまとの国はと人問へば。

 平地の川岸では、菜の花が満開。強く鮮やかな黄色。

 

 

 4月。

 川の桜はまだ咲いているけれど、若緑色の葉も出てきた。丘陵もあちこちで萌え出でている。

 ゆうべから風が凄い。きのうは雨。朝、川は久しぶりに茶色い濁流だった。北の山は雲に覆われている。

 

 

 隣の自治体の寺のしだれ桜。濃い目のピンク色で美しい。前に来たのは震災の翌年だった。

 水路沿いの桜並木。用水との取り合わせが他になく、やっぱりいい。カフェで布マスクを買った。400円。高いと思わなかった。政府から配られるのより安心で、模様もすてきだと思った。

 溜め池。桜の頃に来たのは初めてだ。湖の周囲が桜。多くの人が入れ替わり訪れていた。外出自粛の風景ではない。でも、桜に誘われて、近辺のふつうの人達が来ていた。

 美しい桜と光る湖面。水鳥。アメリカの山中のダム湖を思い出した。人々が思い思いに過ごしていた。「佳い日だ」と思った。かけがえのない幸福な日とはこういう日だ、と大塩湖で思った。

 ほうぼうで桜が咲いている。花びらが下にたまっている所もあった。山では新緑がはっきりと始まった。湖で歩いた時、春の山の匂いがした。春が来た。

 

 

 山は桜吹雪。青い空に映える。周りでは木々の若葉が光を浴びている。

 冬から急に、世界が極彩色になったようだ。

 小鳥のさえずりも多い。

 春だ、春だ、春が来た、と思う。

 花びらでピンク色の道。桜色の道。

 紫色のスミレがあちこちで咲いている。スミレとはスミイレ(墨入れ)が語源だとしても、姿にぴったりのかわいらしい名前だ。

 

  花誘ふ嵐の庭の雪ならで ふりゆくものは我が身なりけり(百人一首

  またや見む交野のみ野の桜狩り 花の雪散る春の曙(俊成)

  もろともにあはれと思へ山桜 花よりほかに知る人もなし(百人一首

  山がひの桜花 君に見せてば何を思はむ(池主)

 

 山中の黄色いヤマブキの花。美しい濃い、明るい黄色。

 谷間の木々の若葉も美しい。

 紫色のミツバツツジも満開。こんなにあったかな、と驚くくらいあちこちの山肌で咲いている。

 だがやっぱり、山頂の神社の奥にある、登山道沿いの南斜面に広がっている群落がすばらしい。特に大岩の上から見下ろすと、様々な濃淡が重なって、その重なりが美しい。

 赤いヤマツツジもだいぶ咲いている。

 麓の溜め池で、黒いアゲハチョウが死んでいた。春は始まったばかりだというのに、もう死んだのだ。

 

 

 山の展望台にツバメが飛んできた。飛んできた1羽の鳥を見て「ツバメかな」と思ったのだが、近くに来たのを見ると、やはり尾が分かれていて、ツバメだった。ツバメの飛来がとてもうれしかった。

 アゲハチョウも飛んでいた。

 ソメイヨシノは終わりの方。道も山川も、薄ピンク色の花びらが溜まっている。美しい。

 紫色のミツバツツジは満開。赤いヤマツツジも場所によってはかなり咲いている。

 

 

 丘陵の新緑が美しい。新鮮なサラダのようだ。美味しそう。

毎年そう思う。

 丘陵をなす丘はなだらかで丸い。それがちょうど、器に盛ったサラダの形なのだ。新緑の色合いと、丘の形がすごい山だ。標高160mくらいから一気に490mの山をなして聳えている山では、こうは見えない。

 

 

 山頂の神社の奥の登山道。ミツバツツジの盛りは過ぎていた。けれども、ピンク色の花、紫色の花、ヤマツツジの赤い色、淡紅色の花、そして若葉の白銀色、銀色がかった新緑との取り合わせが美しい。まさに花園のようだ。

 曇っていて肌寒かったけれど、「極楽とはこのように美しい所なのだろう」と思った。

 隣に見える山の新緑とヤマザクラも美しい。

 登山道ではヤマザクラが花びらを付けた花の形のまま、地面にたくさん散っていた。着物の紋様のようだった。

 麓でもツバメが飛んでいた。

 

 

 4月半ば。

 北の山の上方は冠雪。南の山もうっすらと。西の山も白い様子が目を引いた。

 でも、丘陵は完全に新緑サラダ。全山隙間なく新緑サラダ。

 

 

 山。曇りの日だけど、美しい。ソメイヨシノミツバツツジは終わりだけれど、八重桜、まだ咲いているヤマザクラが美しい。

 地面にも色とりどりの野の花が咲いている。尾根から谷を見下ろすと、木、灌木の新緑でいっぱいだ。

 鳥のさえずりの量が凄い。ピピツー、ピピツー、ピピツー。

 春はこれからだ、これからだ、と思う。

 真紅のヤマツツジ

 数日前から、夜は蛙の声がしている。

 

 

 山。車道の脇にリンドウの花が咲いている。水色、薄紫色のリンドウの花。

 すごい人出だった。

 ヤマザクラヤマツツジミツバツツジ、新緑。とても美しい。麓の溜め池に下りてから見た山も美しかった。

 「今日死んでも悔いはない」と思った。感染症で苦しみながら死んでも。怖れないためにも山に登りたいと思った。

 

 

 山。あちこちに薄青いリンドウの花。白い雪のようなウワミズザクラの花。

 尾根を歩くと、谷間や隣の尾根の新緑がいい色。山林の中には薄紅いヤマザクラの花が散る。

 青いウバユリの芽。暗緑色の斑(まだら)が目立つホトトギス草。ウツギの白い花。いろいろなものが出てきた。

 

 

 山。風が涼しくて気持ちいい。あちこちで鳥がさえずっている。

 尾根の緑の濃い淡いが美しい。白いウワミズザクラの木が1本あり、アクセントになっている。

 やっぱり、山はいいなあ!

 車道に隣接している草地で、アナグマが動いていた。