群馬県民としての違和感について。
たとえば、わたしは『薄情』の舞台とおなじ平野に住んでいたけれど、「あの大雪」についての感想は違う。
1日め
降雪予報は知っていた。
けれども夕方、翌日の気の進まない集まりに対し、「雪が降ったら行くのがめんどう」という理由で中止が提案されたとき、中心人物は渋ったくらいだった。
また、別の活動について
「あしたは雪でも実施しますか?」
と訊いてみたところ、
「馬鹿を言っちゃあいけない。グンマの雪は大したことないんだから実施する」
くらいの答えが返って来た。
雪について、わたしや平野部の県民の多くは何の対策もせず、寝た。
2日め
「翌朝」「カーテンを開けて二階のベランダから外を見下ろして」わたしは「呆然とした」――
すごく近い所に雪面が迫っていたからだ。
ふだんと遠近感がまったく違っていて、あたりは白い面で覆われていて、瞬間的に異常を感じた。
でも、わたしの叫び声を聞いた家族の反応は「うるさいよ~」といった感じだった。
当たり前なのだ。
少し前の週末にも、「大雪」が降ったのでたいへん珍しがり、歩いて写真を撮りまくっていたような地域なのだから。
家族も何気なく外を見て、「うわっ」と声を上げた。
それで共通理解が持てた。
屋根の信じられない雪の厚さ。
その日は一日、外に出なかった、もとい、出る気になどなれなかった。
さまざまな活動が中止になり、連絡が飛び交った。
重要な資格試験の関係者は何心なく家から出ようとしてドアを開け、「うわっ」となり、そのまま閉めたという。
3日め
さすがに(日曜日)は出ざるをえなかったが、ドアを開けただけで改めて、とんでもない事態であることを実感した。
「伯父の家と違ってかれの家にはスコップしかなかった」
――いや、わたしの家にはチリトリ(塵取り)しかなかった。
大大大大大雪に、小さなチリトリ、玄関用。
しかし、「なんて有効なんだろう、あって良かった」とまで思って使った。
すると、見かねたご近所の高齢男性が除雪にふさわしいスコップなどを貸してくれた。
そのうち、結婚式に出るという人、仕事に行くという人などが出て来た。
そして、周囲に驚かれ、止められた。
みんな、「何とか外出できるだろう」と、ふつうの気持ちで出て来たのだ。
あたりでは、子どもも含め、住民が総出で雪かきをしていた。
顔を知っているくらいの人と初めて、力を合わせて働いた。
バイクが来て、新聞が配達されたときはうれしかった(連載小説を愛読していたので)
――「結局土曜日の新聞は来なかった」
結局、除雪車は来なかったが、午後には住民の献身的行為によって道路は除雪され、スーパーへ車で行けた。
しかし、パンの棚は空いていた気がする。
東日本大震災の週末を思い出した。
4日め
月曜日は休業になったけれど、用務先に何とか行き――県道?は驚くほど除雪なんかされていなくて、二車線道路は一車線になっていた――、集まった人と雪かきをした。
そんなことも初めてだった。
その後もかなりの期間、市街地でも雪が残っていた。
とくに歩道を歩くのは恐ろしかった。
また、駅近くの、昔からの住宅街で雪かきが行われていない様子も気になった。
「だが今のこの大雪は、これこそが災害ではないのか。」
――小説通り、郊外では農業用ビニールハウスがことごとく、ぐにゃりと潰れていた。
それは怖い感じを与える荒廃の風景で、同級生と「震災」のように感じた。
ビニールハウスは結局、季節がめぐってもそのままで、再建には時間がかかった。
また、「カーポートを作ろうという人はめっきり減った」と住宅関係の人は言った。
今
‥‥とまあ、「あの大雪」の非日常は忘れられない。
生涯で初めての体験であったために、小説の主人公の「宇田川静生」よりも、自分の実感の方に重きを置いてしまう。
佳編だからといって、日常の異化は簡単ではないことを実感する。
かえって、一千年前の都の貴族社会が舞台の『源氏物語』や、
エリザベス朝のロンドンで演じられていたシェイクスピアの戯曲の数々や、
非現実に突入する感じがたまらないスペインの『ドン・キホーテ』、
南米の一族の盛衰を究極の圧縮語りで叙述するガルシア=マルケスの『百年の孤独』、
台北の数十年前の“商店街”を点描する呉明益『歩道橋の魔術師』(天野健太郎訳)など、
自分より遠い世界の描かれた虚構のほうが、文学の異化効果をかんたんに味わえるのかもしれない。
しかしもしも、群馬県民が権威ある賞を差し上げられるなら、谷崎潤一郎賞授賞理由とは異なる理由で、絲山秋子さんを大々的に、華々しく、顕彰することだろう。
百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)
- 作者: ガブリエルガルシア=マルケス,Gabriel Garc´ia M´arquez,鼓直
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