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本をめぐる愉楽『ビブリア古書堂の事件手帖』三上延

記憶の本棚−ほんの感想


 作者によれば後半に入ったという4巻までについて、勝手な私的ランキングを挙げると、
  1位  3巻『栞子さんと消えない絆』
  2位  2巻『栞子さんと謎めく日常』
  3位  1巻『栞子さんと奇妙な客人たち』


 最新刊『栞子さんと二つの顔』も好きだけれど、なぜか既刊のほうに忘れられない話が収められているのだ。
 それも取りまぜた私的ランキングは、
  1位 「宮澤賢治『春と修羅』(關根書店)」  第3巻第三話
  2位 「足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』(鶴書房)」  第2巻第三話
  3位 「太宰治『晩年』(砂子屋書房)」  第1巻第四話
  4位  第4巻
  5位 「『王さまのみみはロバのみみ』(ポプラ社)」  第3巻プロローグ・エピローグ
  6位 「坂口三千代『クラクラ日記』(文藝春秋)・?」  第2巻プロローグ


 このランキングが本単体の評価 3→2→1→4 につながっている。 
 なぜ、こうなるのか?
 書き方ではないかと思っている。
 初の長編4巻もよかったし、工夫の凝らされた力作だ。
 ただ、他巻は取り上げられている本を読みたい、という気持ちが湧くのだ。
 実際に『クラクラ日記』を読んだ。
 無謀にも、先に篠川智恵子の謎に迫りたくて。
 (結果、自分が若かったころ、いくつかの作品が大大大好きだった坂口安吾の戦後の様子や、安吾終焉の地で、自分も関係のある桐生市について知ることができた)
 4巻には、江戸川乱歩の巧みな語りや、独特の美学・快美感を実感させてくれる小説本文の引用がない。


 でも、このシリーズは今、とても好きな本だ。
 4巻発売のころ、75歳の受賞で話題になっていた『abさんご』
 新聞に載った作者のエッセイが何ともいえず個性的で印象的だったので、とっても気になり、読んだ。
 ひらがなの多用や、和語による説明など、表現上の工夫は新鮮だったけれど、(横書きは水村美苗が英語混じりで既におこなっている、と思っている)、内容はふつうの作家が描く感慨に思えた。
 むしろ、女主人公が弱くて、グチっぽいようにも。

 
 対して、『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズは反対の極み、比較を絶するエンターテインメントだが、すっごくおもしろくて極上、という理由で、芥川賞作よりもわたしの軍配はこちらである。
 人物描写、ストーリー展開、伏線の活用。
 とくにキャラクター造型はライトノベルっぽいけれども、登場人物の年齢は高めで、人生に対する感慨もよく、老若男女どなたも楽しめそう。


 ――本が大きな役割をもっているミステリーでは宮部みゆき『淋しい狩人』、北村薫「円紫さん」シリーズを知っているが、『ビブリア古書堂の事件手帖』の魅力は何だろうか?
 単刀直入に言って、それは恋愛と結びついた夢、だと思う。
 好ましい人と組んで生きていける喜び、そうなるかもしれない期待感。
 好きな本と人のおかげで、人生を味わい深く生きる歓び、そうなるもしれない期待感。


 あと、日本の作品に重きが置かれているところ。
 一昔前は、欧米の小説や哲学、文化を知っていること、それらを中心に語ることに価値が見いだされていたように思う。
 横文字とか、アジアなどをふくめ政治、社会と向き合った“世界文学”を。
 あるいは、洋楽、カルトな小説、映画を。
 ‥‥自分の『ビブリア』愛好は、内向き、閉鎖的、と反省すべきなのかもしれないが、日常の生活感覚と合っている。
 思い切りかっこよくいえば、成熟による豊かさ、誇りを感じる。
 
 発売後まもなく、最新刊を読んでしまったので、5巻が待ち遠しくてたまらない。
 こんなランキングも作った(イラスト/越島はぐ ・ デザイン/荻窪祐司)
 
   表紙の1位   第3巻(体を正面に向けて座る、白いワンピースの栞子さん)
   扉絵の1位   第2巻(江ノ島の見える、朝?の鎌倉の海辺)
   目次ページ1位  第3巻(栞子さんの家族写真、モノクロ)


 今までのものを越えることを願ってしまっている自分がいる。
 ――三上延マニアの誕生だ。