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2012よかった7冊『気仙川』『被災した時間』『川の光2』

『気仙川』  畠山直哉
『被災した時間』  斎藤環
『川の光2』  松浦寿輝


1位
『気仙川』 畠山直哉(河出書房新社)

 書評で知って手に取り、結局プレゼントとして買ってもらった。
 冒頭の文章の内容には、ショックを受ける。
 そのうち、ことし通った地域であることに気づき、よく読んでみると、地形がわかる気がする。
 姉歯橋は、渡ろうとしたけれど、無かった橋ではないか。
 車のナビゲーションには出ていたけれど。
 あの川の、岸辺のことなのか。


 ことし、八戸から岩手県沿岸を南下していくと、途中からあちこちが広い草原だった。
 よく見ると、建物のコンクリートの基礎が緑の草に埋もれていた。
 残っている大きなコンクリートの建造物(役場や学校など)は、4階ぐらいでも無残に破壊されていた。
 崩れた波止場、倒れた堤防がそのままだった。
(堤防が倒れるなんて。漁港が再建されていないなんて)
 すごい量の廃棄物がブロック状に積まれていた。


 平地を縁取る山林の木々が、赤く立ち枯れていた。
 前後のない高架に電車があったけれど、何なのか、わからないまま通り過ぎた。
 線路はぺろりと剥げている感じだった。
 人造の物は、もろいのだった。
 名勝の三陸海岸は、浄土ヶ浜も無傷に見えた。


 夜は真っ暗だった。
 天の川が白い霧のように、よく見えた。


 今回のような巨大な津波は、過去にも襲っただろう。
 もし、その後に自分が何も知らずに訪れたら、いい所だと思ったろう。
 波の少ない湾の海で魚介が獲れる、近くまで山が迫っているから、山の幸も手に入る。
 川が注いでいるから、田んぼや畑が作れる。
 住み着いたことだろう。


 津波の襲った跡で一番感じたのは、何も無い、無、ということ。
 けれども、『気仙川』を読んで、文化も奪われたことに初めて気づいた。
 当たり前だけれど、何百年も息づいてきた文化があったのだ。
 内陸では、たとえ町や村が灰燼に帰しても、再建して、また同じように継続できる。
 ‥‥‥
 『気仙川』からは、鎮魂の思いも感じる。
 人のあたたかさ、生きていることによる熱気、自然のなかに人の住まう田舎の、限りない美しさ、それらを写真が伝えてくれる。




2位
『被災した時間 ――3.11が問いかけているもの』 斎藤環(中公新書)

 震災直後からの文章を集めた本なので、今読むと、共感できないところもある。
 けれども、あの日からのわたし自身の心を辿り直し、ゆるやかに立ち直るのを助けてくれたような本。
 4月、山中のお寺に行って桜を見た。
 多くの人がぞろぞろと集まり、めいめいお花見をしていた。
 集落の桜が茶色い冬山に映え、境内のしだれ桜は、空から降ってくるように美しかった。
 そのとき、わたしの心に「生きていてよかった」という思いが沸いてきた。
 しみじみと。
 不謹慎か。
 わたしは被災者でも、まわりにそういう方がいるわけでもない。
 ただ、この本を(やっぱり書評で知って)読み、結局自分で買って、また読んだ。
 阪神・淡路大震災についての中井久夫さんの本が役立ったように、今後来たるべき災厄に遭う時、わたし自身がいくらか役立てられるといい。
 


3位
『川の光2 タミーを救え!』 松浦寿輝

 当記事タイトルに「よかった7冊」とあるけれど、これは本ではなく、新聞連載(読売)。
 最初のころは、動物の話なんて子ども向けみたい、と敬遠していた。
 子どもの頃は、そういう話をさんざん楽しんでいたにも関わらず。
 でも、挿絵の動物があまりに愛らしくって、(島津和子さんの絵)、ちょっと読んでみたら、夢中になってしまった。
 それからは朝一番に新聞を読もうとしたり、まず1面の目次で小説欄を確認して直に開いたり。
 翌日が気になる叙述で終わるので、まるで操られていた。
 終わりに差し掛かるころは連日、一喜一憂。
 うわごとのように感動やショックを話すあまり、家人もタータやチッチの名前を覚えてしまった。


 こんな人は全国にいたのだろうが、道を散歩しているジャーマンシェパードを見かければ、ビスマルク、ビス丸、と思い、タミーの苦難を思えば胸が痛くなる。
 虚事(そらごと)なのに。
 げに恐ろしきは、連載小説。
 作家の奥様のブログ、担当者のコメントなど、関連サイトを巡回するようになり、前作『川の光』、『川の光 外伝』を求めた。
 家の中には島津さんのイラスト(新聞切り抜き)が貼られている。
 わたしのお気に入りは、何といっても、地下鉄サムが詩を作って朗唱する場面。
 「速度、白、速度、白!」といった詩句のおもしろさ。
 みなさんはいかに。


 連載小説や挿絵入り小説、音読にも適している語り物が、現実をいともやすやすと絡め取り、自在に支配していく圧倒的魔力を、身をもって味わえた好記事だった。

気仙川

気仙川

被災した時間―3.11が問いかけているもの (中公新書 2180)

被災した時間―3.11が問いかけているもの (中公新書 2180)

川の光

川の光