『からくりからくさ』梨木香歩

http://www.geocities.co.jp/Bookend-Yasunari/1951/books/list2.htmlに追加しました。今後はそちらで加筆修正していきます。


梨木香歩『からくりからくさ』新潮社 1999年5月刊行

『家守綺譚』を読んで、この作家の和風の暮らしの物語を読みたくなった。謎解きも織りこまれていて、けっこうよかった。“妊娠小説”になっているところには、ちょっと笑ってしまったが。

読2004年8月(2004/8/13)
【追記】

 新しい『家守綺譚』より好きだ。少々時を経た日本家屋は、足に踏む、手にふれる木のぬくもりが心地いいだろう。網戸がないことで、緑多い戸外と一体になれる。風は気持ちよく室内に入ったり出たりしていくだろう。庭に育つ新鮮な野草を食卓にのせていくのも、楽しい試みだ。ここに描かれた、自然とともにある生活がうらやましい。これからも読み返そうとするだろう。(でも、網戸がないと、小さな羽虫や羽アリが大群で押し寄せるんじゃないかな)

 人形や能面をめぐるミステリーには、人間の愛憎がからまっていて、引きつけられた。人形も、個展のための作品も、家も燃えてしまって、それですばらしい作品が現出したラストもいい。

 本の編集・執筆をめぐって、ヒロインの一人・紀久が怒り、野望みたいなものを抱くところには共感を持った。

 つくつくほうしの鳴き方、「正調」とか、「底光り」の記述もよかった。

 でも、チェーホフ桜の園』『三人姉妹』のほうがすばらしい。『からくりー』には、わたしには粗がある。容子をはじめとする若い女性たちの共同生活を、登場人物がほめたたえているところ。また、読み終わって時間が過ぎると、物語をひっぱってきた人形「りかさん」についての謎の印象が薄くなっている。『桜の園』も『三人姉妹』も、こまかい話は思い出せない。ただ、いまのわたしと結びついて、わたしを圧迫するものがあるのだ。

 『からくりー』の登場人物で、もっとも共感をもつのは、自己主張が強くて、ちょっと視野の狭い与希子だと思うけど、彼女は前半ではよい扱いを受けていない。女たちにバラエティーをもたせるために、アクの強い彼女が描かれたようにも思った。

 それから、妊娠小説のこと。これは斉藤美奈子の本に出てきて、わたしはその『妊娠小説』を楽しく読んだのだけど、『からくりー』の気持ちのよい生活小説にまで登場したときは、のけぞってしまった。しかも、いちばん主人公たちから遠い人間が妊娠させられるのだ。相手は、外国を放浪している責任感のない男(!)

 いくつかのエピソードといい、紀久をつぶしにかかる教授も、ありきたりな人物みたい。

 とはいえ、この先、みんな幸せに生きていくんだろうな。染織や、織物の分野で成功して。容子の家は、画廊だし(このことはいきなり出てきたようで、ずるいと思った)。東洋と西洋の出会いから生まれたマーガレットの子どもによって、人生にも幅が出て。・・・イヤミっぽくてすみません。

 登場人物たちは幸福になる。『桜の園』や『三人姉妹』とは、まったく反対だ。