源氏物語パスファインダー/源氏物語ブック

ことしの大学入試センター試験の国語は、古文の問題が難しく、全体の平均点も最低だったらしい。 たしかに『源氏物語』は、和文体の「小説」の最高峰だ。 けれども、屈折した心理が精緻、複雑な文体で織りなされている世界に、楽しく気軽に入っていける本が…

アリス・マンロー × 源氏物語――「夢浮橋」の彼岸

ノーベル賞受賞をきっかけにアリス・マンローの小説を読んだ。 短編「次元」(『小説のように』)を読んだとき、「紫式部はこういう小説を書きたかっただろう」と思った。 源氏物語ははじめ、華やかな歴史物語であり、「若菜」以降も光源氏の退場までは、陰…

センター試験で読む『源氏物語』−エリート夕霧の恐ろしい愛−

「大学入試センター試験にいい思い出がない」とか「興味がない」という人もけっこういるかもしれない。 自分もそうであったが、そんな方々にも、国語の本文(テキスト)を名文のアンソロジーとして読んでみることをおススメしたい。 評論(大問一)は新鮮な…

アリス・マンロー ――荒れた世界で生きる

やんごとなき読者も愛読す アリス・マンローの3冊の小説を夢中になって読んだ。 この作家のことを知ったのは、イギリスのエリザベス女王が読書好きに変わっていく『やんごとなき読者』(アラン・ベネット。市川恵里訳)で。 古今のいろいろな作家の名前が出…

“あかりの湖畔”の近くに暮らして

登場人物の三姉妹が描き分けられているすてきなカバー(画・木村彩子さん)の単行本を裏返して、ハッとした。「あ、榛名湖と榛名富士!」 山と湖面、手前に梢、という風景の絵が、よく観光用に使われている榛名湖の写真とそっくりに見えたのだ。 読売新聞で…

自己啓発書が好き――『風姿花伝』世阿弥

書店の棚や、売り上げランキングを見ると、世の中には自己啓発書があふれている。 「自分には必要ない」と思っていたが、ふと気づいた。 世阿弥の文章は、断片であっても、りっぱな自己啓発書ではないだろうか。 有名な『風姿花伝』は、深刻幽玄、むずかしそ…

さは自らの祈りなりける―源氏物語ミステリ『望月のあと』森谷明子

小説、テレビドラマ、映画など、世の中にはミステリー作品があふれていても、自分は興味がないと思っていた。 しかし、『ビブリア古書堂の事件手帖』(三上延)の発売日はチェックしていたし、『千年の黙(しじま) 異本源氏物語』→『白の祝宴 逸文紫式部日…

極上の愉楽『ビブリア古書堂の事件手帖 4』三上延

既巻でもSF、コバルト文庫、まんが、いわゆるサブカルチャー的な作品や、アニメ、絵本とともに、それらとは対極的な、国語の教科書に載っている文豪(的存在)の本が取り上げられてきた。 そして、どの話でも、基本的知識から驚きのトリビアまでが織り込ま…

本をめぐる愉楽『ビブリア古書堂の事件手帖』三上延

作者によれば後半に入ったという4巻までについて、勝手な私的ランキングを挙げたい。 1位 3巻『栞子さんと消えない絆』 2位 2巻『栞子さんと謎めく日常』 3位 1巻『栞子さんと奇妙な客人たち』 最新刊『栞子さんと二つの顔』も好きだけれど、なぜか既…

超然を支えるもの――絲山秋子『作家の超然』

『作家の超然』(『妻の超然』所収)は忘れられない小説だ。 連作3編の掉尾にふさわしい作品であるだけでなく。 絲山秋子さんによる群馬県の小説では、木々の緑が光り輝いているラストの『ばかもの』、「FMぐんま」内部を覗くような期待感と主人公の快復…

はんぱ者、読書をす。『終わらざりし物語』J.R.R.トールキン

前にもふれたように、『指輪物語』を通して読んだのは1回だけ。 『指輪物語』のことは、すごい、と感嘆している。 読んでいた時も、最初のあたりは長〜い描写に無理をしたり、女性がなかなか活躍しないのでイライラしたけれども、後半はページをめくるのも…

2013講書始 『ホビットの冒険』トールキン・瀬田貞二訳

このタイトルに、多くの人は変な気がするだろうし、不遜と感じるかもしれない。 一般的に想起されるのは皇居の行事であり、それは講書始の儀といわれ、学問始でもあり、皇族がノーベル賞受賞者らとともに、各界学識者から講義をお聞きになる儀式のようだから…

2013書初 『忘れられる過去』荒川洋治 → 『麦』石原吉郎

荒川洋治さんの文章が好きだ。 平明な文章なのに、語り口が人なつこくて、いろいろ教えられるのだ。 こうした作品を知ることと、知らないことでは人生がまるきりちがったものになる。 それくらいの激しい力が文学にはある。読む人の現実を生活を一変させるの…

2013読書始 『評伝 野上彌生子 迷路を抜けて森へ』岩橋邦枝

野上彌生子の“北軽もの”。 年末2回にわたって取り上げた建築小説『火山のふもとで』(松家仁之著)。 これらを好きなのはなぜか? (『火山のふもとで』には野上弥生子らしい作家「野宮春枝」が重要な人物として描かれている) この本を読んで、その理由が…

2012よかった7冊『流れる』『アフリカの日々』『旅』+α

『流れる』 幸田文 『アフリカの日々』 ディネセン 『旅』 谷川俊太郎・香月泰男 『読み解き源氏物語』 近藤富枝 4位 『流れる』 幸田文(新潮文庫) 高校の図書室は文庫コーナーで、幸田さんの随筆に出会い、夢中になった。 古書店の100均を愛用していたの…

2012よかった7冊『気仙川』『被災した時間』『川の光2』

『気仙川』 畠山直哉 『被災した時間』 斎藤環 『川の光2』 松浦寿輝 1位 『気仙川』 畠山直哉(河出書房新社) 書評で知って手に取り、結局プレゼントとして買ってもらった。 冒頭の文章の内容には、ショックを受ける。 そのうち、ことし通った地域である…

すてきな別荘村に住めなくても『時の余白に』

前に書いた建築小説について、インターネットでの感想には、筆記具などの小物までセンスがいい、などと称賛されている。 そうなのか。 縁がないからまったく、気がつかなかった。 この点について、読者の好みは分かれるだろうと分析している人もいる。 そう…

謎めいたタペストリー 『火山のふもとで』松家仁之

新聞の書評で興味を惹かれ、いろいろなメディアにおける高評価や、書店で平積みをちらりと立ち読みして、無性にほしくなってしまった。 「話題の、良質な長編小説をじっくり味わいたい!」と。 実際に読み始めてからは、「古典的な小説なのかな」とトーン・…

『江戸の風雅』番外編〜酒井抱一〜

酒井抱一『四季花鳥図巻』のミニ複製(上下2巻)が、群馬県立近代美術館のミュージアム・ショップで売られていた。 教科書にも出ている、ドラクロワの『自由の女神(民衆を導く自由の女神)』がルーヴル美術館から来たとき、家族に連れられ、東京へ見に行っ…

『江戸の風雅』 others

そのほかによかった作品 新聞などでも紹介されていた狩野探幽『鸕鷀草葺不合尊降誕図』(うがやふきあえずのみことこうたんず) 鶴の恩返しが想起される絵。こちらは「チョッ」って覗き見ちゃった感じ。 山幸彦の左下から、タテ長の画面下まで続き、さらに横…

『江戸の風雅 旧きを知り 新しきを創った絵師たち』群馬県立近代美術館

ランキング“ベスト8” 1位 酒井抱一 『朝顔図』 好き。かたちと青い色がいい。 『秋草花卉図』も好き。 金地に、べったりとしたカラフルな塗り絵みたいでもあるんだけど、花の向き、葉のそよぎ、葉先・枝先の向きがすばらしい。目に快い。快楽。軽快な感じ…

水村美苗『母の遺産 新聞小説』/絲山秋子『末裔』

【転落・下降感からの恢復】 水村美苗さんの『母の遺産 新聞小説』についてのレビューは、連載されていた読売新聞にも出たけれど、週刊誌「AERA」(朝日新聞社)にも出た。 その記事では、〈芸術と知〉を激しく求めた母、旧世代の象徴が〈花柄〉であるが…

武田百合子さんの秘密?

作家武田泰淳さんについての雑誌の追悼特集で、日記を公表した武田百合子さん。 ご家族の回想という枠でもあったのだろう。 では、『富士日記』『犬が星見た ロシア旅行』――つまり、泰淳さんとともに生きていたころの日記は、なぜ書かれたのか? 百合子さん…

『武田百合子』第5巻!

『精選女性随筆集』という本が、川上弘美と小池真理子の選で刊行されることを、新聞の広告で知る(文藝春秋) 1冊、1890円もする。全12巻。 広告は大きくはなくて、タイトルは第1巻『幸田文』(川上選)と『森茉莉・吉屋信子』(小池選)のみ。 けれ…

『切羽へ』井上荒野

ガソリンがなくなったので、最近やってきた自転車で、はじめて町に出かけてみた。 驚いたのは、自転車は歩くのとはまったく違って、はやく着いてしまうこと。 あまりにはやく着いてしまうので、もっと遠くへ行きたくなる。 寄るところは本屋さんくらいしかな…

三浦しをん『木暮荘物語』

年末におもしろかった小説は、三浦しをんの『木暮荘物語』年末の読売新聞で、或る書評者がおすすめの3冊にあげていて、たしか、こんなことを書いていた。 「三浦しをんは、もはや国民作家だ。 老若男女問わず、誰にでも愛読される、稀少な作家だ。」(確認…

綿矢りさ『勝手にふるえてろ』

年末年始の休み前に、図書館から久しぶりにたくさん借りてきた中で、すぐに読んだのが、綿矢りさの『勝手にふるえてろ』どんどん読んだ。前作の『夢を与える』と同じく、綿矢さんって、「イジワルなんだなあ」と思った。『夢を与える』のテーマも、『勝手に…

静けさの美 ハンマースホイ展&常設展

「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情 Vilhelm Hammershøi: The Poetry of Silence」 国立西洋美術館 リサイクル・ボックスにあった(捨てられていたのと同じだと思う)パンフレットで、この展覧会を知った。 ゆったりめの黒いワンピースの女性が、…

光に魅せられたフェルメール展

「Vemeer フェルメール展 光の天才画家とデルフトの巨匠たち」東京都美術館 それまでフェルメール作品は、いくつかの絵に限ってなら、好きだった。 青いターバンと、耳もとの大粒の真珠、瞳やくちびるのちょっとした輝きに目を奪われる、若い女性像。フェル…