源氏物語「幻」巻に重陽の節句が書かれているというので読んでみたら

9月9日は重陽の節句。『源氏物語』には、菊の花の上に綿をかぶせ、その露で身体の老いを拭い、長寿を願う平安時代の風習が描かれています。画像は紅葉山文庫旧蔵の『源氏物語』より「幻」。江戸時代前期の写本と考えられています。https://buff.ly/2gyfsFy …

酷い!真田丸で撃滅された雑兵の気持ち『とっぴんぱらりの風太郎』万城目学著

『ローグ・ワン』と似ているけれど、こちらを読み終わった直後は、怒りすら覚えた。 なぜなら、本を読める時間はあまり無いので、読む本一冊一冊は自分にとって最高の本であってほしい。 (本だけでなく、映画や音楽、マンガに対しても同じように期待してし…

群馬県民の『薄情』絲山秋子さんの小説の感想

『薄情』は、やっぱりおもしろい。 最近また気になっている。 絲山秋子さんの小説である(谷崎潤一郎賞受賞) 高崎市 “移住” 十周年の記念作といえるようだけれど、“移住” 初期の『ラジ&ピース』が明るさが差して、思いやりに包まれ、軽やかで、まるで色彩…

澤田瞳子さん『孤鷹の天』『若冲』『夢も定かに』

澤田瞳子(さわだとうこ)さんは気になる小説家だ。 初めて知ったのは『孤鷹の天(こようのてん)』の短評だった。 奈良時代が舞台の優れた青春小説、というような紹介に、強い興味が湧いて読むと、全体は生硬な印象だけれど、ほかの小説には持ったことのな…

高橋源一郎訳「方丈記」は訳ではなかった!(日本文学全集)感想

インターネットで評判を知り、興味が湧いて読んでみた。 夕食前のひとときに、夢中になってページをめくった。 「おもしろい!」 方丈記は、もともと好きな古典である。 関心をもっている家/住まいについて論じられているし、とても短いからだ。 四〇〇字詰…

『ジニのパズル』読後に完成する美しいパズル:感想

発売後から評価の高いことや、芥川賞候補に選ばれたことも知ってはいたけれど、手に取ったのはテレビ番組『アメトーク』の「読書芸人」の回で俄然、興味を掻き立てられたからだ。 わくわくして読んでみると、予想以上に粗削りで陳腐だった‥‥ ところが今は、…

A国大統領選からの源氏物語――紫式部がいる!

政治のできごとや社会の様子に「現代の世界は最悪かも‥‥」と絶望しかけたとき、ある本のことを思い出したら、元気になれた――その本が『源氏物語』である。 主人公の光源氏は徹頭徹尾、理想的な男性だ。 だから、実際の当時は、そうではない支配者層の男性や…

絲山秋子さん『薄情』谷崎潤一郎賞@群馬県(3)

主人公はふつうの群馬県民ではない。 だからいいのだ。 『薄情』の絶妙な味わいは、「宇田川静生」がふつうの群馬県民ではないことに起因している。 「おれ」はいうなれば、半神半獣ならぬ、半深半住だ。 県北の嬬恋村に五か月くらい住み込んで、キャベツ収…

絲山秋子さん『薄情』谷崎潤一郎賞@群馬県(続)

群馬県民としての違和感について。 たとえば、わたしは『薄情』の舞台とおなじ平野に住んでいたけれど、「あの大雪」についての感想は違う。 1日め 降雪予報は知っていた。 けれども夕方、翌日の気の進まない集まりに対し、「雪が降ったら行くのがめんどう…

絲山秋子さん『薄情』谷崎潤一郎賞@群馬県

2016年、群馬県民はある文学賞のニュースに大喜びした。 ノーベル文学賞ではない。 発表の翌日だったかには 「絲山さんがナントカっていう賞もらったんだってね!」 「すごい賞ですよね。よく話題になる芥川賞なんかより」 「そうなの!?」 「芥川賞って年…

フジバカマの香りまとう源氏物語の貴公子たち

「フジバカマに王朝人の芳香」という読売新聞の記事がおもしろかった(2016年10月6日付) 『暦めくり』という連載記事で、執筆者は斎藤雄介氏(編集委員) 葉を乾燥させると、甘い芳香がする。 中国では、若葉をもんで髪の毛にしのばせ、湯に入れて浴し、ま…

『涙から読み解く源氏物語』で読む源氏物語

『涙から読み解く源氏物語』鈴木貴子氏(笠間書院/2011年) この本を読みながら、源氏物語について、つらつら思ったことです。 【涙から読み解く源氏】 光源氏はよく泣くと言われるけれど、一般的に女性的、と言われる要素を持っているところがふしぎな魅力…

二つの時間を生きる『シン・ゴジラ』―災後の傑作だ

目撃せよ、この神話! 『シン・ゴジラ』(庵野秀明/総監督・脚本)を観ると、二つの時間を生きることになる。 それは、ゴジラを知らない時間と、東日本大震災を知らない時間である。 東京湾――江戸前――に、のたうつ尾っぽ(巨大なミミズみたいだった。あと恐…

私も拾いたい―鴻池朋子の「あたらしいほね」"根源的暴力vol.2"の感想

「あたらしいほね 鴻池朋子展 根源的暴力vol.2 A New Species of Bone Primordial Violence」 群馬県立近代美術館(高崎市) 「あたらしいほね」、とか「根源的暴力」、というタイトルだけだったら行かなかっただろう。チラシをはじめ、各種メディアに掲載さ…

ネクトンの事考えてまう…絲山秋子「ネクトンについて考えても意味がない」

絲山秋子さんの中編『小松とうさちゃん』は魅力的な(恋愛と暴力についての)小説だけれど、単行本に同時収録されている短編もおもしろい。 『ネクトンについて考えても意味がない』 題名といい、とても新鮮な感じを受けた。 「こういう内容、設定の小説を知…

幸福な末裔――小松とうさちゃん、と絲山秋子さん

【ふつう、母の遺産なんか、何もないんだよ?】 水村美苗さんの長編小説『母の遺産』を読むと、下降感にやられる(2010年〜読売新聞連載) 没落して、老後に突入する怖さでいっぱいになってしまう。 気の利いた人はみなああいうマンションに移り始め、このま…

椿餅と源氏物語――次代の低き貴公子達と恋の終幕

(承前) 椿餅を、蹴鞠の後の宴で若い貴族たちがはしゃぎながらつまむ「若菜 上」。 つづく「若菜 下」では、恋心の高じた柏木がついに侵入し、女三の宮は妊娠してしまう(次巻「柏木」で男児の薫を出産)。 世間からすると、栄華を極めた源氏が老いてなお、…

椿餅と源氏物語――いはけなき柏木物語「若菜」

(承前) 柏木が女三の宮を見た蹴鞠のあと、源氏は"東の対の南面"で人々をもてなす(「若菜 上」) 華やかなイベントは新婚の宮側に見せて、準備の必要な宴会は、センスが良くて女主人として有能な紫の上側に任せる、ということだろうか。 殿上人は簀の子に、…

椿餅と源氏物語――不穏で退廃的な春の六条院

源氏物語に桜餅ならぬ椿餅(つばきもち)というお菓子を、若い貴族がふざけながら食べるシーンがある、という記事に引きつけられた。 若い貴族が蹴鞠を楽しんだあと、椿餅をふざけながら手に取って食べる場面がある。 ここでもつばきは若さの象徴だ。 読売新…

るろうに剣心の限界「伝説の最期編 るろうに剣心」映画雑感

この三部作映画の最終編の輝きは、なんといっても志々雄真実(ししおまこと)によってつくられている。 軍艦「煉獄」(すごい名前だ)での最終対決でも、ヒーローの緋村剣心は完全に劣勢。 斎藤一(はじめ)、四乃森蒼紫(しのもりあおし)、相楽左之助(さ…

るろうに剣心「誕生編 剣心の覚醒」映画雑感

実写版『るろうに剣心』三部作は、一言でいうと、見ごたえのある殺陣(アクションシーン)と、引き込まれる成長物語が魅力である。 原作との違いに批判もあるらしいけれど、原作を知らないわたしは夢中になった。 娯楽大作ならではの「あれ?」と辻褄の合わ…

『伊豆の踊子』川端康成←→ベルリンの『舞姫』森鷗外(鴎外)

森鷗外(鴎外)の『舞姫』を好きな人、熱烈なファンって今どれくらいいるのだろうか? 高校の国語の教科書に載っているので、現代の多くの読者は学生だろう。 学生たちはこの小説をどう評価するのだろうか。 「太田豊太郎君、君は間違っている」という激しい批…

ホラー×モンスターの『けむたい後輩』柚木麻子

『けむたい後輩』は今一番好きな小説だ。 だから、『ダ・ヴィンチ』2015年12月号「柚木麻子特集」での作家のコメントは驚きだった。 わたしにとって、真美子はモンスターだし、栞子が幸福だとは思えないからだ。 栞子は何も生まず、消費し、だめ男に搾取され…

影のヒロイン「いと不調なる娘」が見せる貴族社会

源氏物語の“正編”(光源氏が生きている「幻」までとする)において、取り上げるべき女性登場人物(キャラクター)といえば、藤壺の中宮、紫の上、六条の御息所、明石の君、朧月夜、空蝉、末摘花、夕顔、玉鬘、朝顔の姫君、女三の宮、葵の上、花散里、弘徽殿…

須賀敦子さんの指さす世界、書いた世界――『モンテ・フェルモの丘の家』『須賀敦子全集4』

須賀敦子さんが書いてくれたから、知った作家、読んだ本がある。 ナタリア・ギンズブルグ、須賀敦子訳『モンテ・フェルモの丘の家』(『池澤夏樹個人編集 世界文学全集』河出書房新社) 久しぶりに読んだ。 原題は『町と家』『都市と家』だったというが、そ…

坂田和實『ひとりよがりのものさし』――大いなる勘違い

坂田さんのことを知ったのは青柳恵介の『骨董屋という仕事』という本(平凡社)を読んだときで、20代だった。 そもそもの始まりは『一万円の骨董・アンティークス』という末続堯の本(京都書院アーツコレクション)との出会いだった。 『一万円の骨董・ア…

芦雪:南紀無量寺の襖絵群――虎と夢の時間

本州最南端、潮の岬(しおのみさき)から戻ると、函館の航空写真みたいな、左右を海に挟まれた串本の町が現れた。 町は、海面と同じくらいの、平らな半島に広がっていた。 地方銀行、個人商店、民家の建てこんだ狭い道を進むと、錦江山無量寺(臨済宗)・「…

群馬県高崎市紅雲町が舞台――吉永南央『珈琲屋こよみ』シリーズ

書店の地元作家コーナーで名前を見た気もするが、何も知らないまま手に取った。 わたしが机に置いたその本に、ある人が手を伸ばした。 紅雲町にいたことがあるのだ。 そう、「紅雲町」は実在する。 女子高があり、東京へつながる駅、県庁に近い――群馬県前橋…

黄金の時代、ゴールデン・エイジ →→平安時代、藤原時代

日本の歴史で一番引きつけられるのは、平安王朝、藤原氏繁栄のころ。 個性を持った、いろいろな女性の様子が生き生きと書き残されているからだ。 たしかに宮廷は後もずーっと続き、女房(上級召使い)も存在した。 鎌倉時代も、貴族女性が新鮮で深遠な和歌世…

諸兄による源氏物語ブック

源氏物語についての本を読むと、尊敬すべき諸姉に出会えるけれど、もちろん諸兄の本にも教えられてきた。 筆頭は橋本治氏。 『源氏供養』(中公文庫) 初めて読んだのは、橋本治節に夢中だった高校時代かもしれない。 源氏物語についてほとんど知らなかった…